東京大学運動会ラクロス部男子2012OFリーダー / 出戸 康貴

踏み出す
 2年から3年に上がる時、自分は幹部にならないだろうと思ってたし、正直やりたくはなかったです。幹部はチームのことを考えて大変っていうイメージが強かったし、去年のリーグ戦で何もできない自分が嫌で、今シーズンは自分のことに集中して実力をつけたいと思っていたので、チームのことと自分自身のことは両立して考えられないと思っていました。

 でもシーズンが始まる前に浦山さんに何度かミーティングに呼ばれて、「幹部をやってほしい」、という話ではなく、「今年のチームを一緒に考えていって欲しい」という話をされている中で、気づいたら幹部をやることになっていました。4年になったら幹部になろうと思っていたのですが、それを1年早くやろうと、この時覚悟を決めました。今となってはですけれども、そういうアプローチをしてくれた浦山さんには感謝しています。

 シーズン最初の全体ミーティング、みんなの前で「今年は日本一になる部活をつくるために幹部をやることにしました」とは言ったものの、この時実際は実力も、具体的な理想のラクロス像も、覚悟すらもなくて、意気込みだけでした。このまま幹部をやっても絶対なんの役にも立たないな、という危機感がありました。








 それでフェスタ(※1)のキャプテンをやることにしたんです。ただ、「一つのチームのリーダーをやる」なんていうのは初めてだったので、試行錯誤の連続でした。チームの全員にイメージを浸透させるために、何回もラクロスのビデオを見せたり、「うまくいかないのは疲れが原因かな」と思って負荷を軽くしてみたり、技術不足だから技術練を夕方にやってみたり。僕って他人にあまり興味ないとか、干渉しないってイメージを持たれてると思うんです。実際に2年の時はそうでした。例えば、僕自身はパスミスをしていないとすれば、「チーム全体でパスミスが多いから、みんなでパス練しよう」、って考えることは2年の時はまずありませんでした。「それより僕は1on1の練習したいわ」、って思う方だったので。

 でもフェスタ期間の3週間、あらゆる意見とアドバイスと文句がキャプテンである僕のところにきて、その度に色々なことに気づかされて、チームのことを考えることがどういうことなのかが分かった気がしました。そして、単に「大変だ」というイメージしかなかった「幹部になる」ということが、どういうことであるかも。『チームに責任を負う』ことがどういうことか分かって、その時はじめて具体的な覚悟を持って、幹部としてのスタート地点に立てたのだと思います。

 だけど、実は最初から「キャプテンをやる」と決めていた訳では全くないんです。元々僕はキャプテン気質ではないし、やったらすごく大変そうだと思っていたので、いざ「キャプテンを決めよう」っていうときに、ぱっとすぐ手は挙げられなかったですよ。でも、これから幹部になるために自分を変えたかった、変わろうって思ったんです。だから「これがチャンスだな」と。そして今、フェスタでキャプテンをやったことが、すごく自分の糧になっている。「あの時手を挙げてよかった、踏み出して良かった」と感じています。

※1 フェスタとは毎年3月に行われるつま恋スプリングカップのこと。今年はチーム全体を2等分して、浦山主将率いる浦山チームと出戸選手率いる出戸チームで臨んだ。




上手くなることの意味
 実際に幹部をやってみて、幹部をやった方が、幹部をやらないで自分自身の上達に集中するよりも上手くなったんじゃないかと今は思っています。23期の茂木さんが引退する時に「幹部やった方がうまくなるよ」っておっしゃっていたんですが、「ああ、本当だなあ」と感じています。責任をもってやる分、一生懸命になるし、特に、人に説明するために自分の中で色々整理するという過程を経験したのが大きかったです。今まで感覚でやってきたことを言葉にして整理することで自分自身の理解も深まったし、プレー中の判断も速くなりました。あと、感覚にはどうしても癖があるので、セオリーを覚えておくことで、選択肢も増えました。

 だけどそれ以上に、幹部をやっていなかったときと今とで一番違うのは、『上手くなることの意味』だと思います。それは、1人の選手としての「上手い」プレーと、幹部をやってチームを勝たせようとしたり、チームスポーツとしてどういうラクロスをしようか考えたりした時に出てくる「上手さ」の違い。今までは、「ラクロスが上手い」っていうのは、例えばシュートが上手いとか、パスが上手いっていうことだと思っていました。

 でも幹部になって、練習を準備の段階から考えたり、目標へ向けてのダイナミックな時間の流れをもっと細かく捉えたりすることで、「上手さ」の深さや広さも変わりました。あと、視野も昔より広がったと思います。今までは、例えばシュートっていう切り取られた一部分を意識して上手くなろうとしていましたが、今はOFリーダーとして、シュートを上手くなろうとする時と同じくらい細かく課題を列挙して、それをひとつひとつ潰していくことでOFを上手くなろうとしています。より高次元で考えるようになったので、試合でのパフォーマンスも上がったのだと思います。

 こうした良い変化は幹部をやっていたからこそ得られたもので、だから今は幹部をやっていて良かったと思っています。でも、幹部ではない人が1プレイヤーとして、幹部なみに責任を持ってラクロスのことを考えるようになったらもっと良いですよね。現状、幹部でない人はコーチと意見を交わす量が幹部に比べたら圧倒的に少ないから、自分の意見に対する還元を得づらいと思います。だけど、コミュニケーション量を増やして、選手一人ひとりの視野が広がれば、東大のラクロスはもっと強くなれるはず。僕自身もこの「もっと1人1人責任を持ってほしい」という想いをなかなか言葉にする機会がないのですが、後輩や周りにもっと働きかけないとなと感じています。




リーグ戦への想い
 去年の自分がすごくだめだったので、今年こそは結果出します。今年のチーム、12年度のOFを評価されるのはリーグ戦なので、理想のラクロスを完成させて、「良いチームだった」とか、「東大のOFは良いよね」って言われるようなOFをしたいです。今まで約半年間チーム作りに関わってきて、やっぱり去年とは違う気持ちでいます。去年も勝ちたいとはもちろん思っていましたけど、「自分が点取りたい」っていう気持ちの方が強かったです。でも今年は、「チームとして評価されたい」って思うようになりました。

 リーグ戦を通して、今年の東大ラクロスが大事にしていることを見て感じて評価してもらえたら嬉しいし、「理想のOFは12東大だ」って言われたらすごく嬉しい。何年かあとに、未来の東大や他のチームにも理想像として掲げられるOFにしたいです。実際完成すれば、十分そういうものになると思っています。だからやってて楽しいですよ。うまくいかないことも多いけど、この夢はきっと叶えたいです。

 ここで「日本一に懸ける熱い想い」なんて言えたらかっこいいのかもしれないけど、それは僕の本当の原動力じゃない。日本一がどういうものなのかわからないっていうのもあるかもしれないけど、そもそも僕は「部活をやるなら、勝ちを目指すのは当たり前だろ」って思うので、それをわざわざ主張するのには抵抗があります。僕は、下手な自分が許せないから練習するし、実現したいOFがあるから頑張る。やると決めたことはやる、それが僕のプライドで、原動力なんです。だから今年、そういう『自分自身のエネルギー』みたいなものを大事にしてくれる人が主将で本当に良かったと思っています。




4年生への想い
 25期は面白い人が多いし、ラクロス好きな人多いですよね。だから少しでも長く一緒に部活やりたいし、12月の終わりまでやってほしい。3年間一緒にやってきて、すごくお世話になったので、本当に勝ってほしい。だから、勝たせてあげるというか、できる限り勝ちに貢献したいです。他の4年生の幹部がすごく頑張ってるのを近くで見ているので、結果が出て努力が報われてほしいと思います。

 幹部の中で僕だけが3年なんですけど、他の4年生幹部には特に気後れみたいなものを持たないように、僕も「今年で引退する」という気持ちで必死にやってます。来年のことはあまり考えず今年結果出そうと本気で思ってる。3年生だから4年生に比べて覚悟の弱さが出てしまった、みたいなのは絶対にイヤですから。その点でも今年勝ちたいし、4年生は同期じゃないけど、同期同然に一緒に頑張ってる仲だから、勝ってほしいし、勝ちたい。それに尽きます。





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