東京大学運動会ラクロス部男子2012年度Head Coach / 山下 尚志

浦山の気持ちに応える
 HCを引き受けたのは、主将の浦山に頼まれたからというのが大きいですね。浦山には人を引き付ける魅力がある。僕は、人の想いに応えるために行動するということはとても大事だと考えているんだけど、東大ラクロス部には、その気持ちに応えたいと感じさせるような、気持ちの良い人が多い。浦山に頼まれた時、今までのラクロス観や経験を総動員して、今年勝たせたいと思ったんです。

 そして今、強い想いを持った浦山に乗っかった形でHCを務めています。浦山がしたいことを本人の言葉や行動から汲み取って、実現する手伝いをしている。HCの一番大事な仕事は、「今年らしさ」を形にしていくことだと考えています。例えばラクロススタイルで言えば、浦山はエネルギーが高いから、理性的に試合をコントロールするというのはしたくなさそう。「全部俺が止めるから、思い切って行け」という感じ。今年の「ゴールへのベクトルが強いラクロス」というのは、浦山にもチームにも合っている。とても良いものができていくのではないかと思います。






過去の経験を活かして
 自分が主将を務めた10、コーチを務めた11よりも、良いものをつくりたい。現役からコーチ、さらにはクラブチームでの経験から、東大のラクロスはもっとレベルが上がるはずだと感じています。学生の模範になるラクロスをつくりたいですね。

今年の東大は、10からの3年間の中でも、すごくおもしろいラクロスができるに違いない。今年のチームはそれが目指せると思っています。


コントロールすることの限界
 09くらいまでは、東大で大事にされてきたことは、「試合をコントロールすること」だったと思います。どういうことかというと、ペースをコントロールすることで試合の中で起きることを限定し、その中で何を武器にしてどう戦うのか、という試合運びを徹底して勝つ、というスタイル。それがだんだん周りにも波及してきて、09一橋(※1)はその完成形の一つだったと思います。その年の一橋はとても強く、衝撃的でした。でも、そういったスタイルは頭打ちになってきているのではないかと感じています。

(※1:強力なライドを活かし、ボールポゼッションを保つ。ATが仕掛け、得点を取るというパターンを徹底した。全日本大学選手権で優勝し、初代学生日本一となった。)





あらゆる局面で勝つ〜10Blue Bullets
 そういうラクロスを1段階超えたくて、僕が主将を務めた10東大(※2)は、限定した場面ではなく、「あらゆる局面で勝つ」ことを目指したんです。そのためにはあらゆる状況で良い判断をする必要があり、その土台となる「自分で考える能力」が不可欠。コーチの指示通りに動くだけだった状態から脱却し、現役主体で考える体制に大きく変革しました。その取り組みによって、チームとして大きく変化できたという実感を持っています。

 それでも、10最後の試合となったFINALでは、様々な局面で勝っていたが、試合には勝てなかった。この感覚は納得してくれる人も、そうでない人もいるんだけど。目指したことは達成できていたのに負けたような気がして、終わったとき、何が悪かったかよく分からなかった。

(※2:09リーグ戦敗退を期に、10では様々な変革が実行された。それまで引退直後の大学院生が務めていたコーチを社会人OBにも依頼し、平日は現役幹部主導で練習を進めたことも変革のひとつ。10では山下は主将を務め、リーグ戦全勝通過。目標であった「学生王者」は目前だったが、関東FINALで早稲田大学に敗れた。)


4年生任せのチーム、東大の限界
 それから僕がたどりついた敗因の一つは、部員全員が勝てると思っていたこと。4年生や中心選手に任せておけば大丈夫という雰囲気があって、部員が多いためかどこか他人事だった。それをうすうす感じていながら改善できなかったのは詰めが甘かったと思うし、東大の限界はそこにあるのではないかなと。毎年4年生が強い覚悟を持って頑張っているのが最後の方に花開いて、後輩も最後には尊敬できる先輩だったと言っているのはすごく良い。

 でも、その分4年生と下級生との間に、気持ちの格差がある。下級生も競争相手だし、全員にリーグ戦で活躍するチャンスがあって、全員東大を勝たせて日本一にするためにやっている。Bチームにいる部員がAチームの勝ちにコミットしているのは当たり前だし、試合に出ている人が出ていない人にラクロスを教えることは当たり前なはず。でもそうはなっていない。東大にはそういう壁があるなと感じたから、今年はそれを打開したい。




局面への分断
 もう一つは、各局面で勝つと言っていた分、分断して考えすぎたこと。これは今の学生のラクロス全体について感じていることでもあります。切り分けて個別に考えるのは上達する上では有効なんだけど、最終的に試合に勝てるかと言うと、必ずしも直結しない。例えばClearで言えば、OFとDFを分けて考えていると、DFは頑張ってボールを奪ってOFコートにつないだら役割終了、という考え方になってしまう。

 それでは得点に対して無責任だし、ひいては勝利に対して責任が負えていない。GBに寄るときも、単純に拾うだけでなく、一瞬ゴールの方向を見るかどうか。シュートが打たれた瞬間、rideに移行する意識があるかどうか。各局面では勝てていたけど、その間をつなぐ意識、その次の局面への移行を常に考えていられたら、もっと多くのチャンスを作り出し、勝利につながったかもしれないと思います。



つなげて考える〜「あらゆる局面」の間にあるもの
 だから、今年HCになったときに「ゴールへの意識を持て」と強調しました。様々な局面を意識しつつも、さらにそれらをつなげて考えることで、その間を埋める。ラクロスを全体としてつながったものとして、捉えるようにする。分断された自分の役割を遂行することのみを考えるのではなく、前の局面、次の局面にまで踏み込んで、全員が勝利に対して責任を持つようにしよう、と。

 そしてその中でもポジティブなベクトルであるゴールへ向かうことを最も重要な意識として掲げました。最終的にはラクロスは点を取らなければ勝てないから。そして何より、ポジティブなベクトルの方が、浦山には合っていると思ったからです。浦山はGだけど、キャッチセーブした瞬間に相手のゴールを目指す。DFであろうとFOであろうと、今ここにある時点からゴールを意識する。そういうチームはチャンスを多く作れるし、エネルギーがある。この「ゴールへのベクトルが強いラクロス」というのは、リーグ戦を戦う上での今季のラクロススタイルにもなっています。




全ての選択肢を、得点に結びつけて考えること
 とは言っても、Clearの後は必ずLGもシュートを打てとか、Break狙えとか、ということではない。常日頃からつなげて考えていることで、常に最終的な目標である「得点」へつなぐという選択肢を持つことができて、チャンスを作り出せるし、チャンスが生じた時に逃さず攻められるということ。要するに、全体像を頭に入れて、ゴールチャンスを第一に考えるということは求めるけど、実際にその選択肢を実行するかどうかは別問題ということです。

 これはラクロス頭を鍛えるというところにもつながっていて、決めごとではなく選択肢の中から自分で判断するということが大事。このときはこうするのが当たり前、この戦術に対する解法はこう、と覚えておくだけでは、ラクロス頭はどんどん下がっていく。選択肢を複数も

った上で、自分で考えて判断することによって、自分の頭も鍛えられるし、勝ちにつながると信じています。



HEROになる覚悟
 ラクロス頭を鍛えることに関連して、今年は「HEROになる覚悟を持て」ということも伝えています。HEROとは、俺が勝負を決めるという気概を持った人のこと。

 浦山もいつも言っていることだけど、ラクロスはスタイルにのっとれば勝てるという訳ではない。だから、個人個人が自分で考え、判断し、表現してほしい。毎回コーチの指示を待つような選手にはなってほしくないし、最終的な場面ではそういう選手は勝利に貢献できない。本当に勝負がかかった試合で、まともな判断ができないほどの緊張感。

 そんな状況で、自分がどう活躍するのか、どうありたいのか。そんなことを考えて実行できるプレイヤーになって欲しい。これは人によって考え方が違って、「やるべきことを整理して、あとはやるだけ」という考えの人もいる。それはそれで、一つの良い哲学だと思います。また監督によっては、このチームにスーパースターはいらない、規律が大事という人もいる。


 でも僕は、そういうところで、実際に何をしたいか、という方が結果に関わってくると思うんです。本当に自分がやりたいと思っているからこそ、実現できる。冷静に判断するよりも、絶対に自分が決めるという熱意の方が、気持ちが呼応して周りに波及すると思います。

 そう思うのは自分の経験に基づいていて、覚悟を持って練習している人、俺が絶対決めてやるとか、やりたいことをやる、表現する、といった気概を持った人が試合を決めていると強く感じるんです。去年の山本や上野は間違いなくHEROだったと思うし、やっぱり試合を決めるのはそういう感覚だと信じている。


 12BLUEBULLETSでは、そういう気概を大切にしたいし、全員がそう思えるようにしたい。全員が勝利に対して責任を持つ。自分でチャンスを作り出し、自分で判断してやりたいことをやって、自分がチームを勝たせる。今年のチームなら、それができる。浦山を中心に、実現していきます。


Editted by Ayaka Nishiguchi
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