心を教えるために 今年フレッシュマンヘッドコーチ(以後、FHC)をやろうと決めた要因はいろいろあるけれど、一番強かったのはこのままだと東大がこれ以上飛躍的に強くなることはないな、という漠然とした不安があったからです。 僕の代(*1)以降、個人的には1年生の育成がうまくいった、という感覚はありませんでした。結果として「この代は強い」とだれもが言えるような代もありません。これをどうにかしなくては、と。 とは言え、僕は3年までは自己中心的なプレイヤーで、自分がうまくなればいいや、という気持ちが強くて新歓などもあまり力を入れてなかったんです。4年生になっても上級生、ABチームのことは強く考えていたけど、練習場所の違う1年生(*2)まであまり意識を向けることができませんでした。引退して4年間を振り返った時に1年生の育成も新歓もしっかり関わらないまま終わってしまったことを心残りに思いました。これが二つ目の理由です。 最後に、これがある意味もっとも直接的な要因なんですが、昨年度のFHCだった石塚さん(23期)に「心の部分をしっかり教えられるFHCは新井しかいない」と4年生の夏くらいから言われていたんです。そこでは、引退後のチームへの貢献の形としてそういう形もあるのか、というくらいの引っかかりだったのですが。 僕にとってFHCは、1年生のその後の学生ラクロス人生4年間に大きな影響を与える存在なので、トップチームのヘッドコーチの次に責任が大きいと思っていて、自分には荷が重すぎるなと思っていたのですが、石塚さんに言われたことでむしろ「僕しかできる人はいないんじゃないか」と思えてきたんです。 僕自身、心とか人間性の部分をすごく大事にして4年間やってきていたので、その部分がFHCには大事なんだ、と石塚さんに言っていただいたことで、自信になったのだと思います。 *1:24期、2011年度卒業 *2:例年1年生は上級生とは違い、駒場キャンパスのグラウンドで練習を行っている。 大切にしたいのは枠よりも軸 ここ数年のフレッシュマンチームの育成はフレッシュマンチームを上級生と意図的に分断するような“東大らしい”方法を行ってきたと思います。そこには上級生と分断することで、上級生を見習うのではなくさらに上級生を越えていく、ということが意図されていました。しかし、やはりこのやり方だと、「チームの一員」になるのがどうしても遅くなってしまうし、チーム全体としての力が弱くなってしまうな、と感じました。もちろん練習場所が離れている、という環境の問題もあって、一年生を「チームの一員」にするのは、非常にエネルギーを必要とすることです。しかし、上級生が一年生の育成に責任を持ち、そのなかで一年生が成長する、このことがチーム全体にエネルギーを与える、というのがベストだと思っています。今年は例年よりも上級生が下級生に指導するといった体制が整っていますし、28期にも上級生を常に意識するように言っています。 僕は2010年度主将(現ヘッドコーチ)の山下さんの考えである「ラクロスはコーチが考えたことを遂行するのではなく自分で考えプレーするものだ」という考えに非常に共感していて、そういう考え方ができる人材が育つような育成にしたいと思いました。うまくいくこともそうでないこともありますが、今年は今までの育成方法には捉われずどんどん新しいことを試していっています。こちら側が達成すべき“枠”を常に与えるような育成方法ではなく、どの部分でも通用するような基本の考え方である“軸”を身につけさせて、自分で考えて成長していけるような選手になって欲しい。だからこそ、今年は教えたOFの型をなぞるといった練習メニューはやることはなく、常にプレーする方が自分で自由に考えることができるメニューを行っています。このことを通じて、28期には本当に自分でラクロスを考えられる選手に成長してもらいたいです。今年は23期の樋浦さんも育成に関わってくださっていて、樋浦さんはそういう基本の考え方を凄くわかりやすく教えてくれているのでとても心強いです。 負けず嫌いな集団をつくる シーズン当初から言っているのですが、僕が目指すチームは負けず嫌いな人たちの集団です。同期にも上級生にも他大にも、自分にも負けない、という気持ちを持つように言っています。メンタル面で強くなってほしい。 というのも、自分が部活を通して身についたものの多くはメンタル面の強さだと思っているからです。昨年幹部をしていて負けず嫌いな人が少ないな、とチームに対して強く思っていました。負けず嫌いというのはスポーツをする上で非常に大事なメンタルです。そこが育つのは1年時の育成が強く関わっていると思います。負けず嫌いじゃないと成長スピードも遅い。これは浦山(*3)が「ヒーローになる覚悟」というテーマを掲げたときに、自分の考えと同じだなと思いました。自分がチームを勝たせる、という気概を全員が持っているチームはやっぱり強い。チームの数人の主力しか活躍しないようなチームでは絶対に日本一になれません。 *3:今年度主将、25期浦山卓弥 気持ちのいい人間たれ もうひとつ大事にしていることは心の部分。スポーツマンらしい、接していて人として気持ちのいい人間であってほしいです。東大にはそういう人が少ない気がします。日体や早稲田は明るくて素直で向上心の高い、まさにスポーツマンという人が多い。その結果として、グラウンドで会っても気持ちの良い礼儀正しい集団になるのだと思います。自分も振り返ってみると昔は礼儀の部分はあまり良くなかったと思いますし、それは実は心とか人間性の部分を大事にしきれていなかったからだと思います。 もとは野村克也監督の言葉で、22期の齋藤さんに教わった言葉に「人間的成長無くして技術の向上なし」という言葉があります。これは僕が現役の時から大切にしている言葉です。このことを理解できている人は、自然と礼儀を重んじるようになり、チームを大事にする行動をとるようになるのだと思います。 単純なことで言えば朝の挨拶。自分から元気に挨拶することで自分も気持ちいいし相手も気持ちいい。しないとただの暗い奴で終わってしまう。あとゴミをきちんと片づけられるとか、集合、離散は走るとか、元気に返事をするとか。いくらでもあります。そういうことを日常的に出来る人はラクロスが上手くなるサイクルに乗ることができると思うんです。気持ちのいいやつだな、と先輩やコーチに目をかけてもらうことは自分が上手くなるサイクルに乗ることに繋がります。そして、そのお世話になったコーチや先輩に対する感謝がさらなる自分の人間的、技術的成長につながると思います。人としてしょうもないやつは絶対にうまくならない。ラクロスが上手い人でちゃんとしてない人はまずいないです。それは先輩たちやクラブでやっている一流の選手たちを見てもそう思います。 人間的に魅力がある人でないとうまくなれない。東大生は今まで勉強をしっかりしてきたという人が多くて、スポーツをがっつりやってきたという人は少ない。勉強は1人でがりがり問題や参考書をやっていれば成績は上がるけど、スポーツではそうもいかない。自分のことだけを考えながら、自習室に籠っていても上手くはなれないんです。でも、そこの考え方を変えていければ、人間的にも技術的にも必ず成長できると思います。 ラクロスを楽しむ 今まで4年間ラクロスをやってきて、一つこれは真実だなと感じていることがあります。それは、ラクロスを楽しんでプレーしている人は輝いている、ということです。今の1年生にはそういう人を目指してほしいですし、今後の東大ラクロス部もそういう集団であって欲しい。 クラブの人たちの楽しそうにプレーする感じとか本当に見ていて気持ちがいい。やらされているんじゃなくて、「自分が大好きなラクロスがプレーできて楽しい」という感じが本当にヒシヒシ伝わってくる。決められたことをするのではなく、ラクロスをもっともっと好きになって、エネルギー高くラクロスをしてほしい。こういうスタイルは浦山にも、山下さんにも共感してもらえると思う。これからの東大のスタイルになっていけばいいなと思います。 |